作曲家の古関裕而を主人公にしたNHKの朝ドラ「エール」を毎日面白く拝見しております。
それに関連する番組で紹介されていた曲の中に、太平洋戦争中に古関氏が作曲した『比島決戦の歌』という曲があり、歌詞に「いざ来い、ニミッツ、マッカーサー、出てくりゃ地獄へ逆落とし」という一節があるそうです。
早速YouTubeで曲を聴いてみたところ、当時の戦局からすれば、ほとんどやけくそのような明るい調子なので驚きました。
この部分の歌詞は軍人が無理やり書き換えさせたのだそうで、「ニミッツ」の部分にアクセントがあるように聞こえるのはそのような経緯があったせいかもしれません。
戦後になって進駐軍にこの歌を聞かせたところ、ニミッツ、マッカーサーの部分だけは通じるので、歓迎されていると思って喜んだというおかしな話があります。
日本の歌に出てくるくらいですから、ニミッツ提督は、日本でいえば山本五十六のようなもので、当時から良く知られていたようです。
ミッドウェイ攻略作戦の時期は、米国太平洋艦隊の指令長官はニミッツ提督。
連合艦隊司令長官は山本五十六提督でした。
この作戦は、ミッドウェイ島を攻略することで米国艦隊を誘い出し、これを撃滅するという構想で行われたものです。
南雲中将が指揮する空母機動部隊はミッドウェイ島の攻略に出かけるのですが、日本軍の暗号が解読されていて、米国艦隊が予想外に早く出現したところでミッドウェイ海戦が起きました。
(出典:「失敗の本質」戸部良一他著)
同書によれば、《作戦目的のあいまいさ》と《指示の不徹底》があったとされています。
連合艦隊司令長官の山本五十六にとっては、米国艦隊を誘い出して撃滅することが第一義だったのでしょうが、機動部隊の指揮官南雲中将にこれを十分に理解・認識させる努力をしなかったようです。
これに対し、ニミッツ提督はハワイで機動部隊のスプルーアンス司令官と住居を共にし、価値観や作戦構想の共有につとめていたとされています。
例えば、ミッドウェイ島の一時的占領を日本軍に許すことがあったとしても、空母機動部隊の保全のほうが重要というようなことです。
原子力の世界では「価値観の共有」を重視していますが、ミッドウェイでの日本海軍の失策はこの共有が上手くいかなかった一つの事例と言えるでしょう。
前回ご紹介した映画の中で、山本五十六提督が「陛下にお詫びしなければならないのは私だけだ」と言ったのには、おそらくそのような背景があるように私は思いました。
「価値観の共有」というと少し仰々しいですが、もう少し簡単に言えば「何が大事なのか、みんなの思いを一つにしよう。」ということです。
これなら小学校の教室に貼ってあってもおかしくないほど、全ての人に理解されやすいでしょう。
原子力の世界で重要な判断を迫られた時に、例えば、安全を確保することが大事なのか、利益を上げることが大事なのか。
管理部門と現場との間、本店と発電所の間で意見が違うこともよくありますが、価値観が共有されてさえいれば、重要な意思決定における間違いを少なくすることができるでしょう。
どんな目的があるにせよ、上に立つ人が普段から皆と考えを共有して、思いを一つにしておくことが重要です。
先の戦争が私たちに残した数々の教訓を無駄にせずにいたいものですね。