《プーチン氏の長机》
今回のロシアのウクライナへの侵攻について、プーチン氏の意志決定の問題を考えてみました。
NHKの番組で、侵攻直前の安全保障会議で、関係する閣僚等に意見を言わせているところを見ましたが、意見を聞くというよりは、既に決まっていることについて、自分の気に入る意見を形式的に言わせているようで、答える方はおびえているようにも見えました。
この場面は、ウクライナの二州を共和国として承認するかどうかという局面でしたが、侵攻の決定についても限られた側近だけで決めたと言われています。
チャプリンの「独裁者」
会社組織でこのような意志決定をしていたら大変です。
例えば新規事業に進出する場合を考えてみましょう。
会議の場で部下から、
「社長、ライバル企業は以外と手ごわいですよ」
「わが社の設備も老朽化していますから、設備投資を先にすべきです」
などの意見が出れば、社長さんも
「もう一度考え直してみようか」
となって、リスクを避けることができます。
しかし、ワンマン社長で気に入らないことを言うと左遷されるとなれば、下からは耳に心地よい話しか上がって来なくなり、大変なことになるという、どこにでもありそうな話です。
意志決定の問題で参考になるものとして、次の本をあげておきます。
以前、安全文化の担当をしていた時に読んだもので、組織文化に関心がある人達の間では良く知られているものの一つです。
出典:『属人思考の心理学』岡本浩一・鎌田晶子著
「属人的組織風土」というのは、著者らが創出した概念で、属人思考がはびこると、意志決定に問題が起きたり、不祥事が起こりやすくなるということを実証的に究明したものです。
例えば、属人風土を計る尺度の一つに、以下の考え方があります。
「会議やミーティングでは、同じ案でも、誰が提案者かによってその案の通り方が異なることがある」
先ほどのプーチン氏の会議を考えると、トップの意向には逆らえないという、属人性の極致とも言えます。
後世の人は属人的意志決定の失敗事例として今回の侵攻の件を扱うことになるに違いありません。
それにしても、プーチン氏の会談に使う、あの長~い机は何なんですかね?
二人で話す時にも両端にすわっているので、おかしくて仕方がありません。
相手がテロリストなら自爆ということもあり得るでしょうが、フランスの大統領や国連の事務総長も端っこに座らせているとなると、意味がわかりません。
これを組織文化の観点から見ると、プーチン氏はわざと言いにくい雰囲気を作っていることになります。
前述の図書の中で、ある企業グループ(図書では実名)の事例が記載されています。
「○○グループの多くの会社では、会議の席で発言をすることは禁忌に近いという。発言などしようものなら不心得者と見なされ・・・発言者の上司が会議の後で厳しい叱責を受ける」(筆者による抜粋)
最近、内部告発によって検査記録の偽装等が明るみに出たケースは、そのグループの企業でした。
企業でこんなことがあると、製品に問題はないからいいだろうでは済まず、評判を落としてしまいます。
上司に対して、あるいは同僚同士で、意見を言いやすい雰囲気を作ることも不祥事が起こりにくい組織にするためには大事なこととされています。
ものが言いやすい、健全な組織文化を育てることが重要ではないでしょうか。