すずめ、メジロ・・・。(その4)

2022年07月31日 19:00

《1812年、2022年?》

プーチン氏はソビエト連邦崩壊を20世紀最大の悲劇ととらえているそうです。

ロシア帝国の再興を目指しているという説もあるくらいですから、プーチン氏の妄想(?)に付き合わされるロシア国民はたまったものではありません。

表題にある「1812年」は、ナポレオンのロシア遠征で、ロシア軍がフランス軍を撃退した年ですが、チャイコフスキーはそれにちなんで「序曲1812年」という曲を作っています。

  ▶︎ロシアから退却するフランス軍
  (1874年画、パブリックドメイン) 

今回のロシアの侵攻当初に、どこかのオーケストラで、「序曲1812年」の演奏を中止したというニュースがありました。

音楽の演奏と政治的な問題とは一応別だろうと思います。

ただこの曲はロシア軍がナポレオンのフランス軍を撃退したことを題材にした通俗的なもので、ドカンと大砲の音がして(楽譜にcannonとありますが、普通は大太鼓)、最後にロシア帝国の国歌で盛り上げて、ロシア正教の鐘がキンコンカンと鳴りわたるので、主催者としても時節柄いかがなものかと考えたのだと思われます。

レコード録音では実際に大砲の音が入ったものもありますし、演奏効果が上がるので、割合演奏される機会が多いようです。

最近YouTubeで、自衛隊が演奏に協力して「ドカン」とやっている動画を見ました。

日本は平和で良いですね。


小生も高校生の時に、吹奏楽の編曲版で「序曲1812年」を演奏したことがあり、本番でちょっとしたハプニングが起きました。

曲の最後の方で教会の鐘が鳴るところで、チュブラーベルの固定が悪かったのか、たたいた衝撃でベルが外れて落ちてしまったのです。

チュブラーベルというのは、のど自慢で最後にキンコンカンと鳴らすあれです。

キンコンカン、ドスン、キンコン、ドスン、といった具合です。

半世紀も前のことですが、今でも記憶に残っています。

これは本来お笑いのネタなのですが、教会の鐘、ロシア正教、総主教はKGB(ソ連国家保安委員会)出身でプーチン氏のお友達、という連想があり、多くの人が戦いのせいで亡くなるこのご時世では、笑ってはいられません。

今はただ、ウクライナ人の作曲家が、「序曲2022年」とでも題して、ロシア軍に勝利したことを記念する曲を作れるようになることを祈るばかりです。


チャイコフスキーが好きな方には、「序曲1812年」だけで話を終えるのは申し訳ないので、他の曲の思い出がないかと考えていたところ、中学1年生の時にスラブマーチを聴いたのがチャイコフスキーとの出会いだったことを思い出しました。

それは所属していた吹奏楽部のとなりの部室で、リードオーケストラの音楽部が練習していたスラブマーチでした。

部室の横を通ると聞こえてきますし、先輩が管楽器の応援に行っていたので、全体通して聴かせてもらったこともあります。

音楽部のかわいい女の子のことを思い出したりしたので、それはよかったのですが、困ったのは、それから数日間スラブマーチの主要なフレーズが頭の中で鳴るようになったことです。

この曲は全体に緊張感がみなぎっていて、弛緩したところがありません。

なぜかと思って調べてみると、1876年に、オスマン帝国軍がセルビア人を殺害し、ロシアが義勇兵を派遣したことがあり、その犠牲者の追悼演奏会のために作曲された「セルビアーロシア行進曲」が元になっているということがわかりました。

スラブマーチもまた戦争が関わっていることは初めて知りました。

音楽としては良いと思うのですが、あのじんわりと体のなかから熱くなってきて最後に爆発するのが、スラブの体臭が臭うような感じでちょっと苦手です。

そこでもう少し典雅なもので、バレエ音楽「くるみ割り人形」の中の「花のワルツ」を聴いてみました。

弦楽器がワルツのリズムをきざむ中に、ホルンが深々とメロディーを奏します。

これを聴きながら甘いお菓子でも食べてお茶を飲んでいると、至福の時という感じがして大好きなのですが、スラブマーチと同じ人が作曲したというのも不思議な感じがします。

全くの偏見ですが、「スラブマーチ」は短期間で作曲したためにスラブ人の本音が出たもので、「花のワルツ」は西欧風の影響を受けたものなのかもしれません。

人の好みは様々でしょうが、音楽も美術も文学もすぐれた芸術は人類共通の遺産のようなものなので、特に誤解がない場合は分け隔てなく鑑賞できるとよいと思っています。

品質保証の分野でも、ISO(国際標準化機構)のように国際的に専門家の英知を集めて規格作りをしていますし、小生も米国機械学会の規格作りに関わったことがありますが、文化の違う国から智慧を出しあうことで異なる文化がふれあい、影響しあって良いものができるのは音楽の世界と同じです。

というわけで、次回の国際標準化の話に続きます。

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