ブログでの話題に関する資料を掲載しています。
【INSAG-3におけるアカウンタビリティ】
「セーフティ・カルチャとは、原子力発電所の安全を担う活動に従事するすべての人々の献身と責任感のことである。」
The phrase ‘safety culture’ refers to a very general matter, the personal dedication and accountability of all individuals engaged in any activity which has a bearing
on the safety of nuclear power plants.
この部分は、INSAG-4においても、引用されています。
【レスポンシビリティとアカウンタビリティの違い】
どちらも日本語では、責任の範疇に入ると考えても良いのですが、英語では区別されていて、これを英語の二重構造という人もいます。専門家の説明を以下に示します。
(抄訳)
レスポンシビリティ:あなたがすべきである(又は、すべきでない)こと。仮にするべきことをしなくても、依然として責任はある(レスポンシブルである)。
アカウンタビリティ:あなたや他の人がレスポンシビリティを果たすよう努めること。他の人がレスポンシビリティを果たすように計らうなら、あなたは他者をアカウンタブルにしたことになる。レスポンシビリティを果たさなければ、アカウンタブルとは言えないが、依然としてレスポンシブルであることは変わらない。
このように両者は異なる。安全文化で望まれるのは、実のところアカウンタビリティなのです。
(全文)
Responsibility(and virtually everyone agree on this) is what you are ‘supposed to do’ So even if you do not do what you are supposed to do, you are still ‘responsible’.
Accountability is ensuring that responsibilities are met, either in yourself or in others. If you ensure that you complete your responsibilities, then you are being ‘personally accountable’. If you do not ensure that you complete your responsibilities you are not being personally accountable, even though you are still responsible. If you ensure(or at least try to ensure) that others meet their responsibilities then you are holding others accountable.
So they are different. And it is actually accountability that we want in SC.
【アカウンタビリティを示す行動】
仮に、あなたの事業所で安全に関する期待事項が、階段を降りるときには手すりをつかむことだったとします。
あなたが、手すりをつかまずに階段を下りている人に出くわしたしたら、あなたはどうしますか?
もし何か言うなら(てすりを持ちなさいとか)あなたはその人にアカウンタブルであるように求めていることになります。もし何も言わなければ、そういう振る舞いをしても構わないということになります。
これには、自分にも経験があり、ある発電所へ行った時、お客のような立場だったのですが、階段を下りる時、手すりを持っていなかったところ、同行していた所員から「鈴木さん、手すりを持ってください。」と言われたことがあります。さすがにアカウンタビリティが浸透しているなと思って感心したことがあります。つまり、この所員は、自分がアカウンタブルであることはもちろん、他人をアカウンタブルにするように行動した、ということです。
手すりを持つ/持たないがそれほど重要なこととは思われないかもしれませんが、大は小を兼ねる、の反対で「小は大を兼ねる」ということです。小さなことから大事にしようという精神で行くとよいでしょう。
【安全文化の10特性におけるアカウンタビリティ】
NRCが公開しているNUREG-2165 Safety Culture Common Language よりアカウンタビリティに関する部分の抜粋
(和訳)
個人のアカウンタビリティ(PA: Personal Accountability)
全ての個人は安全に対して個人的責任を負う。
PA.1【標準】
個人は,原子力の標準を遵守することの重要性を理解する。組織内のあらゆる階層が,この標準に合致しないことに対し、責任感(アカウンタビリティ)を発揮する。
PA.2【業務の当事者意識】
個人は,原子力安全を支える行動や業務慣行に対する個人としての責任を理解し,実践する。
PA.3【チームワーク】
個人及び業務グループは,原子力安全を確実に維持するため,組織内及び組織の境界を越えて,活動状況について意思疎通を行い,連携する。
(英文)
4.3 Personal Accountability (PA) All individuals take personal responsibility for safety
PA.1 Standards: Individuals understand the importance of adherence to nuclear standards. All levels of the organization exercise accountability for shortfalls in meeting standards. Examples:
(1) Individuals encourage each other to adhere to high standards.
(2) Individuals demonstrate a proper focus on nuclear safety and reinforce this focus through peer coaching and discussions.
(3) Individuals hold themselves personally accountable for modeling nuclear safety behaviors. (4) Individuals across the organization apply nuclear safety standards consistently.
(5) Individuals actively solicit and are open to feedback.
(6) Individuals help supplemental personnel understand and practice expected behaviors and actions.
PA.2 Job Ownership: Individuals understand and demonstrate personal responsibility for the behaviors and work practices that support nuclear safety.
Examples:
(1) Individuals understand their personal responsibility to foster a professional environment, encourage teamwork, and identify challenges to nuclear safety.
(2) Individuals understand their personal responsibility to raise nuclear safety issues, including those identified by others.
(3) Individuals take ownership for the preparation and execution of assigned work activities. (4) Individuals actively participate in pre-job briefings, understanding their responsibility to raise nuclear safety concerns before work begins.
(5) Individuals ensure that they are trained and qualified to perform assigned work.
(6) Individuals understand the objective of the work activity, their role in the activity, and their personal responsibility for safely accomplishing the overall objective.
PA.3 Teamwork: Individuals and workgroups communicate and coordinate their activities within and across organizational boundaries to ensure nuclear safety is maintained.
Examples:
(1) Individuals demonstrate a strong sense of collaboration and cooperation in connection with projects and operational activities.
(2) Individuals work as a team to provide peer-checks, verify certifications and training, ensure detailed safety practices, actively peer coach new personnel, and share tools and publications.
(3) Individuals strive to meet commitments.
【アカウンタビリティの歴史的背景】
IAEAのガイドであるGS-G-3.5 “The Management System for Nuclear installations”の安全文化の5特性の一つが「アカウンタビリティ」なのですが、その一部に「アカウンタビリティは、前向きにとらえるべきであり、責めを負わせる方法としてネガティブにとらえてはならない」※と書いてあり、以前から何となく不思議に思っていたのですが、以下の著書を読んで歴史的背景があることに気づきました。
出典:「アカウンタビリティを考える」山本清著
※:Accountability should be perceived positively and not negatively as a way to apportion blame.
同書によると、アカウンタビリティは古代アテネの市民社会にさかのぼるというのが通説で「自己の行為を説明し正当化する義務で、説明者はその義務を的確に果たさない場合には懲罰を受ける可能性を持つ」(Bovens,2007)のだそうです。執政と兵役の義務を負う市民が民会に報告し承認を得る必要があり、承認されなければ弾劾裁判にかけられ、その判決で死刑を宣告される確率は、戦争で死亡するより高かったそうです。英米人にとっては、この言葉にまつわる歴史、文化、特にその厳しい懲罰性があたかも背後霊のように張り付いていて、普段意識はしなくとも、DNA,深層心理にはあるのかもしれません。
アカウンタビリティと懲戒、けん責との関係について、原子力分野の安全文化の専門家は以下のように言っています。
「我々は、リーダーが自分自身と他の人が責任を果たすようにすることを望む。これは、直ちに懲罰を意味するのではない。大体そうではないが、たまにはそういうこともある。」
We want the leaders holding themselves and others accountable to meet their responsibilities. This does not automatically mean punishment. The vast majority of the time it will not, but sometimes yes.
このsometimes yesというのが微妙ですね。安全文化では、責めない文化no blame cultureと言いますが、責任・権限を伴う雇用契約があって、それをしなかったら、何もおとがめなしというのは考えられないのかもしれません。
最近の働き方改革で、ジョブ型雇用というものがあります。これは西洋流にjob description職務記述書を伴う雇用ですが、その中には、responsibility and accountabilityという項目があり、accountabilityが書いてなければ懲戒はできないと書いたものを見たことがあります。
国会事故調の黒川元委員長は、「説明責任」という用語を用いたために、アカウンタビリティという用語に含まれる厳しい懲罰性の意味が薄れることを一番問題にしているようですが、歴史的には懲罰という意味あいが含まれるとしても、そのことを異なる文化圏の我々が英語圏の人々と同じように認識するのはなかなか難しいことです。
しかし、原子力に関わるものは福島事故の教訓を踏まえ、「責任を果たす」という意味をもう一度振り返るべきなのでしょう。
【説明責任という用語の発生】
アカウンタビリティの意味で「説明責任」という用語が広く用いられるようになったのは、カレル・ヴァン・ヴォルフレンの「人間を幸福にしない日本というシステム」(1994年発行)がきっかけと言われていますので、INSAG-4(1991年)が発行されたころは、アカウンタビリティに説明責任という訳語を用いるのはまだ一般的ではなかったようです。
また、その著書の中では、アカウンタビリティを「説明する責任」のような意味で用いていますので、「説明する責任」ととらえるのは必ずしも間違ってはいないことになります。したがって、日本で「説明責任」を説明する責任のように使うのも一般的には間違いではありません。
辞書的には、以下のとおりですし、explainという言葉が入っていますから、「説明責任」という訳語はそこからの発想かもしれません。
(安全文化の専門家は、辞書はconfusingで、原子力で用いられる「アカウンタビリティ」は、辞書的な意味ではないと言っています。)
Accountability:responsible for the effects of your actions and willing to explain or be criticized for them (ロングマン現代アメリカ英語辞典)
ISO9001:2015には、「アカウンタビリティ」が使われていますが、一般用語の意味はOxford辞書によりますので、以下ご参考まで。
Responsible for your decisions or actions and expected to explain them when you are asked